その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『トゥモロー・ワールド』

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好きな映画の紹介でも。今回はアルフォンソ・キュアロン監督の「トゥモロー・ワールド

アカデミー賞受賞作「ゼロ・グラビティ」で見せた驚異の長回しの原点。逼塞し、滅亡の兆しが見えても尚、争いを辞めない人類たちの終わりと始まりの物語。以下はあらすじ。

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西暦2027年、人類は18年間の長期に渡って子どもが生まれない未曾有の異常事態が続いていた。このままでは人類絶滅の危機は免れないとされる中、国家運営の仕事に就く男テオは、人類存続に関係する重要な情報を握り始める。人類の未来はおろか、自分の将来でさえ興味を示さないテオだったが……。

メキシコ出身フィルムメーカーの一人として、盟友アレハンドロ・イニャリトゥ、ギレルモ・デル・トロと共に、アカデミー作品賞を受賞した経歴を持ち、近年熱い注目を集める中堅作家アルフォンソ・キュアロン監督のディストピアSF。

西暦2027年の近未来、原因不明の病によって世界中で出生率が0%になった地球では、子供が生まれない絶望感から社会が機能を停止し、経済や文明が滅びの一途を辿っていた。ヨーロッパで唯一崩壊から免れた先進国イギリスでは、日々近隣からの不法移民が雪崩れ込み、人権や自由を巡って街中ではテロが発生していた。人類全体が存続の危機に立たされる中、活動家としての過去を持つ役人テオは、ある一人の少女を国外へ亡命させるようかつての仲間から手助けを求められる。だが、その少女は驚くべきことに“妊娠”していて…

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映画の随所で使用される、ワンカット撮影を用いた“長回し”撮影が特徴的な本作は、本編の中において「なぜ子供が生まれないのか」「あの人物はその後どうなったのか」といった、鑑賞しているうちに感じるであろう多くの疑問にあえて答えず、様々な要素を曖昧にしている。

そのため、ハードかつリアルな描写が多々あるSF作品にしては、やや寓話的な構造が散見されるこの作品だが、世界の全容が明かされないことで、観客は次第に主人公のテオと自分が同じ視点に立たされていることに気づく。まるで自分がその場にいるかのような錯覚に陥る驚異の映像体験は、映画終盤の市街戦における6分16秒に渡る長回しシークエンスでピークを迎える。この6分間だけでも映画を観る価値は充分すぎるほどにあるので、未見の人は出来るだけ大きなモニターで鑑賞してほしい。

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子供がいなくなった世界では、たった一人の赤ん坊が神や奇跡と崇められ、人々の希望や信仰に変わっていく。翻って、有史以来最も人口が増大した現代社会においては、冷戦終結後から10年間で、戦争や紛争で死亡した児童の数は全世界で200万人を超えるという。その戦争で家や親をなくし、路上で暮らすことを余儀なくされた子供(ストリートチルドレン)の数は1億人以上に登り、その内年間100万人に登る児童が性産業で働かされる。

自分の国の利益や雇用を第一優先に考える大国、国交を断絶し半ば鎖国を決め込む先進国。作中で描かれた「自分さえ良ければそれでいい」という未来のイギリスの姿は、公開から13年が経った今、あちこちで現実になろうとしている。その先に待ち受けるのは、明るい未来か、はたまた滅亡か…。

好きな映画『On Your Mark』

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好きな映画の紹介でも。今回は宮崎駿監督の短編映画「On Your Mark

CHAGE&ASKAの同名曲「On Your Mark」のPVとして製作された、巨匠宮崎駿にとっての最初で最後のプロモーションアニメ。以下はあらすじ。

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地表が放射線で汚染されたことで、人類が地下に住むことを余儀なくされたいつかの未来都市。あるカルト教団「聖NOVA'S」の施設を襲撃し、制圧した警官隊。その中の警官2人は、教団施設の奥で翼の生えた少女を発見する。2人は彼女を救助するも、研究資料として今度は政府機関の施設に連れ去られてしまった。2人は彼女を空へ帰そうと奮闘を始めるが…

「新曲のプロモーションビデオをアニメで作りたい」というASKAの要望からスタートしたこの企画は、「どうせ頼むなら最高の人材に頼んでみよう」と、無謀にも宮崎駿に持ち込まれたところ、ちょうど息抜きに何か実験的な作品を作ってみたかったという宮崎監督の需要と奇跡のマッチングを果たし、完成に至ったという経緯を持つ伝説の一作だ。

CHAGE and ASKAが1995年〜1996年にかけて開催したコンサートツアー「SUPER BEST3 MISSION IMPOSSIBLE」の中で、演出の一環としてコンサート会場で限定上映された(後に「耳をすませば」の併映として劇場でも公開)この作品は、6分48秒という短さながらも、長編作品と見紛うほどの情報量と完成度を誇っていて、セリフや説明テロップが一切存在しない謎めいたその作風も話題を呼び、公開当時は「長編化してほしい」というファンの声が止まなかったという。

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放射能によって地上が汚染され、地下ドームのみが人類にとっての居住スペースと化したとある未来。警官隊に属する主人公の二人(CHAGEASKA)は、あるカルト集団が集まる建物に突入作戦を敢行する。そこで行われるのは、権力や暴力を傘にした掃討作戦、一方的な虐殺行為で、ここで繰り広げられるアクションシーンの凄まじさ、虐殺描写の凄惨さたるや尋常ではない。PVという名目上流血こそないものの、その残虐性を微塵も隠そうともしない宮崎駿の本気度は、歴代作品の中でも群を抜く突き抜け具合で、その“本気”は後に作られることになる「もののけ姫」にも継承されていく。

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本作は主人公たちが天使の少女を助けるために、様々な行動を起こしては失敗する様子が描かれていて、展開がさながらマルチエンディングのように分岐していくのだが、その理由は実に単純で、要するに虐殺後の展開は全て二人の“妄想”だからだ。

妄想だからこそ、車は空を飛ぶし、脱出劇は都合よくハッピーエンドを迎える。もっと言えば、“天使”という存在自体も実は妄想であって、羽の生えた天使の少女は、虐殺によって犠牲になった一人の少女のメタファーだ(遺体の中に天使と全く同じ顔の少女がいる)。本作で描かれるのは、どうしようもない酷い現実と、その酷い現実に加担してしまった非力な自分たちに対する贖罪と救いの物語だ。

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物語の冒頭やラストシーンの背景で描かれる印象的な巨大建築物は、臨界事故によって放射能が外に漏れ出したロシアのチェルノブイリ原発(とその建屋を覆うコンクリート壁“石棺”)をモデルにしていて、他にも人気がなくなり静寂に支配された住宅街や、その周辺に点在する建造物(どう見てもスリーマイル島の原子炉建屋)など、本作にはあからさまに原子力発電と、それによって生じた事故への批判と皮肉に満ちている。

原子力発電という人類の夢と希望が、臨界事故によって欺瞞であったことが暴かれた90年代。どんなに危険で、環境を破壊し、やがて人類を破滅に導くものであるとしても、それに依存しなければ、もはや存続は不可能になってしまった現代社会。そして、その便利で豊かな現代社会に“乗っかって”、作品を作り続ける一人の作家、宮崎駿は、自身のこれまでの功罪にケリをつけるため、この作品を試金石に引退作「もののけ姫」の製作に着手していく。

どんなに厳しい現実の中においても、夢を見ること、位置につくことを“それでもやめられない”妄想男の儚い叫びの物語は、後に天使から飛行機へと姿を変えて、「風立ちぬ」へと受け継がれていった。

On Your Mark

On Your Mark

 

好きな映画『ユーリー・ノルシュテイン作品集』

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好きな映画の紹介でも。今回はロシアアニメーション界の巨匠にして、世界的に有名な芸術アニメ作家ユーリー・ノルシュテインの諸作品を集めた『ユーリー・ノルシュテイン作品集

宮崎駿高畑勲を始め、アニメを生業とする世界中の作家たちから、国や時代を超えて熱い視線を集め続ける孤高の天才作家、ユーリー・ノルシュテインによる、世界最高峰のアートアニメーション集。以下はあらすじ。

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世界中のアニメーション、映像関係者から絶大なリスペクトを受け、もはや生ける伝説とも言えるロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン。発表したほとんどの作品が国際的な映画祭で数々の賞に輝き、中でも1979年の『話の話』は1984年に米国の映画芸術アカデミーと国際アニメーション協会ASIFAが共催した国際アンケートで「歴史上、世界最高のアニメーション映画」として認定されるほどの評価を獲得した。

世界最高の芸術アニメ作家は誰かと聞かれれば、それはユーリー・ノルシュテインと誰もが口を揃えて答えることだろう。切り絵を使った緻密な製作を用いるノルシュテインの演出方法は、気が遠くなるような作業量を彼とその妻、フランチェスカのたった二人で作り上げている。その独特かつ斬新な表現手法は、アニメーション(というより映像)の基本原則である“仮現運動”(瞬間的に出現したり消失したりすることによってあたかも対象が実際に運動しているように見える現象)の枠を飛び越え、空間に独特の奥行きと空気感、そして命を生み出す。

ノルシュテインソ連時代に製作した数々の短編映画は、そのどれもが動く絵本とでも呼ぶべき作品に仕上がっているが、中でも代表作である「霧の中のハリネズミ」と、「話の話」における光、空気、そして影の使い方は、全ての映像作品を含めたとしても、唯一無二の表現力と美しさを誇っている。

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今でこそ、多くの人々から愛され、14年のソチオリンピックにおけるオープニング映像では「霧の中のハリネズミ」の映像が一部使われるなど、ロシアが誇る文化の一部となったノルシュテイン作品だが、その道のりは決して楽なものではなく、多くのソ連人作家がそうであったように、表現に対する規制や監視に、作品が切り裂かれそうになったことも多々あった。

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世界アニメーション史上最高傑作とも呼び声高い「話の話」も、当初の検閲では29分の上映時間を大幅に削るよう当局から通達され、「それをするくらいなら永遠に発表しない」とノルシュテインは頑として反発したという。その後、何かの拍子で“数奇にも”ある映画祭でノーカット版が上映されたことで、数々の賞を受賞し作品は一躍脚光を浴びたが、この偶然がなければ、この芸術作品は永久に葬られていたというのだから、世の中は分からないものだ。

幼少時代に感じた自然に対する畏敬と恐怖。瑞々しい子供のイノセントを呼び起こす数々のアニメーション作品たちは、国や時代を超え人々の心に強い感動と驚きを届け続ける。死ぬまでに一度は見るべき、至高の芸術作品だ。

好きな映画『サスペリア』

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好きな映画の紹介でも。今回はダリオ・アルジェントのオカルトホラー「サスペリア

「決して一人では観ないでください…」を謳い文句に「エクソシスト」「オーメン」と共に70年代オカルトブームを牽引した伊製ホラーの代表格。以下はあらすじ。

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ヨーロッパのバレエ学校に入学したスージーを待ち受けていたのは、世にも奇怪な体験だった。次々と殺人が起こる中、彼女は学校に魔女が棲んでいる事を突き止めるが…

アメリカはニューヨークから単身ドイツのバレエ学校に転入してきたうら若き乙女、スージー・バニヨンは、寄宿先の洋館で巻き起こる怪死事件を次々に目撃していく。常識では考えられない不可解な出来事の連続に、事件の裏に“魔女”と呼ばれる超常的な何かが関係していることを確信したスージーは、真相を確かめるため館の地下へ降りていくが…。

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トマス・ド・クインシーの小説『深き淵よりの嘆息』をモチーフに、ダリオ・アルジェントとダリア・ニコロディが共同で脚本を執筆した本作は、赤や緑を必要以上にギラつかせたその独特な色彩感覚と、ジャーロ的要素、そしてオカルトが合わさることで、「オーメン」とも「エクソシスト」とも一味違う、唯一無二な不気味さが多くのファンを生み出したホラー映画の傑作だ。

音楽を担当するのは、「サスペリアPART2」以来度々アルジェント作品に音楽を提供するプログレッシブバンド・ゴブリン。「サスペリアPART2」と聞くと一見サスペリアの関連作品を思わせるが、これは日本が勝手に付けた邦題であって、サスペリアサスペリアPART2はなんの関係も持たない別作品である(本国での公開はサスペリアPART2サスペリアの順番)。

この作品自体の真の続編は80年の「インフェルノ」そして完結編である07年の「サスペリア・テルザ 最後の魔女」と続いていくのだが、正直作品同士の繋がりは薄く、あくまで設定だけ似せた姉妹作として作られている。そして2019年にはリメイクも公開されたが、これもまた設定だけ借りたほぼ別物なので、見る際は注意が必要だ。

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好きな映画『狼は天使の匂い』

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好きな映画の紹介でも。今回はルネ・クレマンの「狼は天使の匂い

フランスを代表する技巧派ルネ・クレマンが送る、不思議な雰囲気漂うサスペンスノワール映画の傑作。以下はあらすじ。

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とある誘拐計画を企てた、しがない男たち。一時は成功したかに見えたその計画はやがて破綻をきたし、彼らを待っていたのは意外な結末だった……。

太陽がいっぱい」「禁じられた遊び」で有名な巨匠ルネ・クレマン晩年の代表作にして傑作。自身が引き起こした墜落事故が原因で、ジプシーたちから追われる羽目になった主人公トニーは、逃走の最中、偶然にも殺人の現場を目撃したことで、老獪な首領チャーリー率いる強盗団の一味に囚われてしまう。あとは殺されるのを待つだけの身であるトニーだったが、同じ屋根の下で過ごすうちに、次第に彼らとの間に奇妙な絆が生まれ始めて…。

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雨の訪問者」と同じく、脚本にセバスチアン・ジャプリゾを据えた男たちの友情と犯罪を描いた本作は、2時間半近い上映時間中、最初の1時間半はアジトでダラダラと過ごす一味の様子を描くだけという、犯罪映画にしては異色(当時としては)ともいえる構造をとっている。だが、その間延びした空気感こそこの作品最大の魅力で、随所で挿入される子供時代の記憶や、哀愁漂う劇伴も相まり、物語は単なるサスペンスものというより、どこか寓話的なファンタジーとして映る。

愛しき者よ、僕達は就寝時間が来たのに眠るのを嫌がって、むずかっている年老いた子供にすぎない」というルイス・キャロルの格言の引用で始まるこの映画は、劇中で度々“遊び”に興じる男たちの様子から見て取れるように、全ては子供の遊びの延長として描かれていて、アジトで楽しげに計画を練るその様子は、まさに大人の秘密基地だ。そして、その遊びからの“卒業”を主人公に促す二人の人物が、どちらも女性というのも、いかにも現実的で面白い。

強盗団の首領を演じるチャーリー役のロバート・ライアンは、本作の撮影中ガンを押しての出演となり、ある意味では主役級の好演を見せてくれたが、この映画が公開された翌年の73年に亡くなった。

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好きな映画『ビッグ・リボウスキ』

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好きな映画の紹介でも。今回はコーエン兄弟の最高傑作「ビッグ・リボウスキ

金なし、職なし、やる気なし。全てにおいて怠惰な男たちが奏でる、ふやけたスパゲッティのごときダメダメヒューマン狂想曲。以下はあらすじ。

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無職で気ままに暮らす“デュード”こと、ジェフ・リボウスキ。今日も今日とて気に入りのカクテル片手に仲間たちとボウリングに興じる中、彼の家に突然、2人のチンピラがやって来る。女房の借金を返せと怒鳴るチンピラに、全く身に覚えがなく呆然とするリボウスキ。その後彼は、同姓同名の大金持ちと間違えられたと気づくが…。

コーエン組として常連のジョン・グッドマンを筆頭に、スティーヴ・ブシェミ、そしてジェフ・ブリッジスが軒を連ねる、ダメ人間ばかりが飛び出すゆるゆるクライムコメディ映画。同姓同名の大金持ちと間違えられ、富豪の若妻の誘拐事件に巻き込まれた中年男ジェフリー・リボウスキは、チンピラに台無しにされた自宅の敷物を弁償してもらうべく、富豪ビッグ・リボウスキの家を訪ねるのだが、弁償どころかリボウスキからは逆ギレを喰らい、「穀潰し」と蔑まれてしまう。腹いせにこっそりリボウスキ宅から高級絨毯をくすねたジェフリーだったが、その日を境に数々の“面倒なこと”に巻き込まれて…。

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不可解な事件に巻き込まれるうちに、怪しげな人物たちと出会い、事件の真相を探る主人公という、筋書きだけならレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説を思わせる本作は、コーエン兄弟お得意の噛み合わない群像劇や、妙に人間臭い馬鹿ばかりが登場する、もはや何で割ったのかよく分からない、得体の知れない安酒のような味わい漂うクライムコメディ映画の傑作だ。

公開当時の評価や興行成績はそこまで良くはなかったものの、後にじわじわと人気に火がつき、登場人物のコスプレをしたファンが、劇中さながらにボウリングをしたり、ジェフリーたちが嗜む謎のカクテル・ホワイトロシアンを飲んだりして遊ぶ「リボウスキ祭り」なるイベントが開催されるほどに、今では一部の層から熱い支持を得ているという。

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職がなくても、金がなくても、歳をとっても、ボウリングだけはやめられないダメでアホな大人たち。社会的に見ればクズ同然でどうしようもない彼らだが、その生き様は実に楽しげで、自分を恥じるどころか、むしろ堂々としてすらいるその姿は、先行きばかりに気を取られ、今という瞬間に集中できない人からすれば、ある意味尊敬に値する…のかもしれない。

全ダメ人間必見、コーエン兄弟天才バカボン

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「これで、いいんじゃないの〜〜〜?」

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好きな映画『悪魔の植物人間』

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好きな映画の紹介でも。今回はジャック・カーディフの「悪魔の植物人間

「黒水仙」でアカデミー撮影賞を受賞した、元撮影監督のジャック・カーディフが送るカルトホラー映画。以下はあらすじ。

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大学教授で科学者のノルター教授は、生物の神秘に魅せられるがあまり、自身が勤務する大学の生徒たちを助手のリンチに誘拐させては、植物と併合させる人体実験を行う狂気のマッドサイエンティスト。教授が行う実験の主旨は、水と光だけで成長が出来る人間を作り上げることにあり、これが成功すれば、食糧危機にも人類が対応できるというものなのだが、既に実験台となってしまった学生たちには悲劇が待っていた…。

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「魔神ドラキュラ」のトッド・ブラウニングが1932年に作った問題作「フリークス」を思い起こさせる、本物の身体障害者を幾人も劇中に登場させた見世物ホラー映画。

夢の植物人間を作るため、これまでに何人もの学生を手下のリンチに誘拐させた、どうかしている生物学者ことノルター教授は、今日も手術台で眠る学生達にあらゆる遺伝子改造手術を施し実験を繰り返していく。だが、そのことごとくは失敗に終わり、醜い怪物へと変えられてしまった学生たちは、サーカス一座の見世物小屋に送られるという悲惨な末路を辿るのだった。

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誘拐の実行犯であり、教授の助手も務める醜男リンチは、その奇形ゆえに自身もサーカス一座に所属する一員なのだが、見世物小屋で働く自分に対して、日頃から強いコンプレックスと引け目に苛まれていた。教授の命令に従うことで、いつか自分の奇形を整形手術で治してくれると信じ込むリンチは、いつものように男子学生を誘拐してくるのだが、その男ブライアンは、ノルター教授が施した食虫植物との併合手術に適合し、ついに悪夢の怪物“植物人間”が誕生してしまった…。

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科学が引き起こした生物同士による合体の恐怖、そして悲壮を描いた古典SF「ハエ男の恐怖」を思わせる本作は、いかにもそれっぽいマッドサイエンティストや、いかにもそれっぽい悲劇と被害者が登場することで、これまた“いかにも”なB級感丸出しなマニアックビデオとして認知されているのだが、この映画の注目すべき点は、悪趣味満載な植物人間のクリーチャー造形や、身体障害者たちによる見世物ショーよりも、それを近くで傍観する小悪党リンチの行く末にこそある。

様々な人間たちに降りかかる様々な悲劇、そしてその末路が描かれていく中、最も惨めかつ救われない死に方をするのがノルター教授の腹心リンチで、自身がフリークス側であることを認めようとせず、他のフリークスたちから差し伸べられた手をことごとく拒絶した彼は、その結果として、最終的にはどこにも居場所がないまま、一人孤独な最期を迎えることになる。

人間誰しも一度は違う自分の姿を望むものだが、過度なコンプレックスが生み出す自身への拒否反応、そして不寛容さは、やがて他者に対する拒絶や差別を引き起こす。植物怪獣よりも醜い人間を生み出すのは、いつだって自分の心に住まうリンチの囁き声なのだ。

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