その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『魔術師』

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好きな映画の紹介でも。今回はベルイマンの「魔術師

世界三大巨匠イングマール・ベルイマンが撮った、不気味で不思議なナンセンスコメディ。以下はあらすじ。

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19世紀スウェーデン。魔術師フォーグラー率いる旅芸人一座が、ある町にたどり着く。暇を持て余していた領事エガーマンは彼らを屋敷に拘束し、警察署長や医師らの前で芸を披露させてそのトリックを見破ろうとするが……。

旅廻りのマジシャン一座と、彼らの見世物のトリックを見破ろうとする役人たちが織りなす、一夜のいたちごっこ。無口で胡散臭いインチキ魔術師を演じるのは、初期ベルイマン作品の顔ともいえるマックス・フォン・シドー。その助手兼妻役として共演するのは、これまたベルイマン作品の常連イングリッド・チューリン

ベルイマン映画の真骨頂ともいえる「顔」のアップが多用される本作は、その重々しい雰囲気と、ホラー(サスペンス)描写の巧みさ等から、一見真面目で難解な作品に映りがちだが、その実、ベルイマンのフィルモグラフィの中でも群を抜いて分かりやすく、また馬鹿馬鹿しくて笑えるのがこの「魔術師」だ。

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本作最大の特徴であり見所は、作中で扱われる真相・真理がコロコロと、まるでスイッチを切り替えるがごとく交互に入れ替わるところにある。

「AはBである」→「というのは嘘で、実はBはAであった」→「と思ったらやっぱりAはBだった」→「ところが本当はAはBで…」と言った具合に、その入れ替わりっぷり、超展開ぶりは完全にギャグで、真面目に観れば観るほど、真剣に捉えれば捉えるほど、シュールかつナンセンスなギャグが、観客の上空を滑空していく。

この「展開だけ見れば笑えるはずが、演出のせいで笑えない」という、ある種悪意に満ちたシニカルな作劇スタイルは、まんまスタンリー・キューブリックの作風の原点であり、特になんちゃって貴族の詐欺師レイモンド・バリーが、イカサマで成り上がっていく様子を描いたピカレスクロマン「バリー・リンドン」は、主人公の性格(何かと妻に嫉妬してすぐ他人を殴る小心者)や、漫画のような馬鹿馬鹿しい展開も含めて、キューブリック版「魔術師」といった内容になっている。

他にもこのスタイルに影響を受けたクリエイターは大勢いて、最近の監督ではアリ・アスターヨルゴス・ランティモス、古参どころではデヴィッド・リンチスティーヴン・スピルバーグ北野武など、「笑える展開なのに、笑えない」というシニカルギャグは、今なお世界中で愛され、フォロワーを生み続けている。

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好きな映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』

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好きな映画の紹介でも。今回は押井守の長編2作目「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー

そこは夢か、現実か。亀に乗った浦島太郎は、麦わら帽子の少女の夢を見る。以下はあらすじ。

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あたるの通う友引高校は、本番を明日にひかえて文化祭の準備に大わらわ。だが……翌日になってもやはりあたるたちは文化祭の準備をしていた。実は友引高校のみんなは同じ日を延々と繰り返していたのだ。事態に気付いた担任の温泉マークと養護教諭・サクラは、原因を究明しようとみんなを下校させるが、無事帰り着けたのはあたるとラムだけ。みんなは何度帰ろうとしても、友引高校に戻ってきてしまい…

テレビアニメ「うる星やつら」のチーフディレクターを務める押井守が、第一弾「オンリー・ユー」に引き続いて監督を引き受けた劇場版ニ作目。それまで「ニルスのふしぎな旅」や、OVA作品「ダロス」などで演出・脚本の仕事をこなしてきた押井にとって、本作は初めて自分の作家性を前面に出した作品として、また自身の作風を確立させた原点として記念すべき一作となった。

原作者高橋留美子の世界観、いわゆる「るーみっくわーるど」の再現に力を入れた娯楽作「オンリー・ユー」とは打って変わって、夢の世界を永遠にループする寓話的な展開や、「現実とは何か」を禅問答し続ける哲学的な要素など、後の押井作品の根幹となるテーマが数多く登場するこの一作は、SFマニアや映画マニアの間で絶賛される反面、原作ファンや作者の高橋留美子からは不評を買うという、賛否両論入り乱れる問題作でもある。

主人公あたるやラムの住む街友引町が、あたるの家を中心に永遠のループを彷徨い続ける本作の内容は、作中でも言及されるように「浦島太郎」や荘子の「胡蝶の夢」がモチーフとなっているのだが、それ以外にも、押井がお気に入りの映画監督として挙げるタルコフスキー、もっといえば、「惑星ソラリス」の影響が強く出ている。

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というのも、ソラリスという映画は、過ぎ去りし過去に対してモラトリアム症候群に陥る男が、意思を持つ惑星ソラリスに自身の記憶を具現化させて、身近な人間だけで作られた偽物の世界を永遠に彷徨い続けるという内容だからだ(押井はこの後にもOVA作品「天使のたまご」でタルコフスキー的世界観に再び挑戦している)。

植え付けられた記憶が原因で、夢と現実の境界が曖昧になるという展開は、古くはフィリップ・K・ディックの短編「追憶売ります」が有名だが、この「追憶…」や、映画「ブレードランナー」の原作ともなった「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の二タイトルは、どちらも後の傑作「ゴーストインザシェル」の原型となった作品であり、押井が本作を作るにあたって、ディックの作品を下敷きにした可能性は高い。

終わらない夏、永遠のループ。アニメ作品として当時斬新な手法を取り入れた本作は、後に生まれる「新世紀エヴァンゲリオン ※1」「涼宮ハルヒの憂鬱※2」などに多大な影響を及ぼした。

※1 エヴァンゲリオンは、セカンドインパクトという世界規模の災害(それに伴う気候変動)が起こったことによって、永遠に終わらない夏の世界を少年少女たちが彷徨う物語として有名。

※2 「エンドレス・エイト」という、ビューティフルドリーマーのプロットと非常に似たエピソードが登場する。また、涼宮ハルヒというシリーズ自体が、主人公涼宮ハルヒにとっての永遠のモラトリアム症候群を描いた学園SF作品である。

好きな映画『砂丘』

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好きな映画の紹介でも。今回はミケランジェロ・アントニオーニの「砂丘

見渡す限りの砂の大地。そこに降り立つ二人の男女。愛と平和、消費と暴力。果てしない渇きの先にあるものは…以下はあらすじ。

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大学紛争に介入した警官を射殺して逃亡した男がいた。彼は小形飛行機を駆って、砂漠へと逃げる。そして砂丘の真ん中で彼は一人の女性と出会い、つかの間の愛をかわすが……。

近代化の到来によって、あらゆる意味で変わり果てた祖国イタリアの人々や、街の姿を描き続けてきたアントニオーニ。前作「欲望」では、イギリスの無軌道な若者文化に焦点を当て、消費社会の馬鹿馬鹿しさをシュールに描いていたのだが、今度の舞台はアメリカである。

カリフォルニア州はデスバレーに存在する広大な砂丘で出会う二人の男女。何もない死の谷で、ふたりぼっちで愛を交わすその姿は、砂に塗れて渇いている。一方、二人の姿と交錯する形でインサートされる資本家たちは、ひたすら開発競争ばかりに頭を使い、ゲームでもしているように広大な森林を伐採し、富と権力を獲得していく。

ヒッピームーブメント、ブランド社会、開発競争、学生運動、そして戦争。あらゆる競争(闘争)行為が正当化され、大事な何かが犠牲になる中、今日も社会は際限なき成長を続け、愛や絆、そして「生活」は商品と化す。果てしなき渇きだけが広がりつづけるアメリカの大地で、持たざる若者同士が愛し合うことの虚しさ、切なさ。新海誠は「天気の子」において、消費社会の悲しさ・不毛さを「雨」で表現していたが、この映画では砂や大地がまさしくそれだ。

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見る者にひたすら「渇き」を提供するこの映画だが、そのオチはなかなかに爽快というか、もはや笑ってしまうくらいに「凄い」ので、必見である。

 

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好きな映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』

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好きな映画の紹介でも。今回はテリー・ギリアムの最新作「ドン・キホーテ

夢と現実、妄想と妄執。狭間を揺れ動く一人の老騎士は、想像の翼で宙を舞う。だが、その先に待ち受けるのは…以下はあらすじ。

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仕事の意欲を失ったCM監督のトビーは、スペインの田舎で撮影をしていた際、学生時代に自分が撮った映画『ドン・キホーテを殺した男』のDVDを持つ男と出会う。舞台となった村を訪れたトビーは、かつて主役に抜てきした靴職人の老人ハビエルと再会する。自分を本物の騎士だと信じる老人は、トビーを従者のサンチョだと思い込み、強引にトビーを連れて冒険の旅へと繰り出す…

スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが1600年ごろに書いた小説「ドン・キホーテ」は、 騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなった郷士が、騎士を名乗って冒険の旅に繰り出す物語。風車を怪物と見立てて突撃していく内容からも、主人公はいわゆる「狂人」として描かれているのだが、この物語に心酔(取り憑かれている)するテリー・ギリアムは、ある種ライフワーク的な題材としてこの「狂人と怪物」を長年描き続けてきた。

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未来世紀ブラジル」「バロン」「フィッシャーキング」「バンデッドQ」「12モンキーズ」「ゼロの未来」等、いずれの代表作を見ても分かるように、ギリアムの作風は「妄想と現実の闘い」というところで一貫していて、その創作のルーツはドン・キホーテからきている。

ギリアムにとって原点(原典)ともいえるこの物語は、過去にも自らの手で映画化しようと何度も企画が進められたものの、その全てが尽く失敗(30年間で9回頓挫した)。その惨憺たる失敗ぶりから、業界内では「映画史上最も呪われた企画」とも呼ばれたという(詳しくは映画「ロスト・イン・ラ・マンチャ」を参照)。

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物語を中世から現代に置き換えたギリアムのドン・キホーテだが、基本的な要素や結末は原作と同じで、老騎士ドン・キホーテは、従者サンチョ・パンサを従え、いもしない怪物、姫、冒険を追い求めて旅に繰り出す。そこに待ち受けるのは、数々の試練、苦難、そしてロマン。置いた老騎士ドン・キホーテは、なぜ見えない怪物と闘い続けるのか?見えない怪物とは何なのか?

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このドン・キホーテ物語に最も近い題材を扱った映画「フィッシャー・キング」においてギリアムは、妻を殺された事で自分を「騎士」と思い込む狂人の男を登場させた。男にとって妻が死んだ現実とは「怪物」そのものであり、夢から覚めて我に返ることは即ち死、「敗北」を意味する。

原作小説でもドン・キホーテは、その結末において「怪物などいない」という現実を悟り、狂気が抜けた末に衰弱死してしまう。世界のどこかに「何かがある」と思える内は、人は夢の中に生きる希望を見出すことができるのだが、何もないと分かってしまえば、そこにあるのは絶望と闇だ。

自覚の有無に関わらず、人はいつの時代も現実の中に神秘(夢)を求める。例えばそれは「神」であったり、「アイドル」であったり、「恋愛」であったり、「キャラクター」であったり、それらが全て科学や金で説明(実現)可能な現代においても、触れることのできない「何か」に人は惹かれ続ける。ディズニーランドに足を運ぶ人間も、コミケでコスプレをする人たちも、風車に突撃するドン・キホーテと何一つ違わない。

妄想・理想とは心の内の純粋さ、イノセントから生まれる産物であり、それは言い換えれば「子供心」とも言う。ドン・キホーテやギリアムが命がけで死守しようとしていたものは、そういった人の心の清らかさであり、辛い現実を生き抜き、闘うための希望だ。だが、夢は覚めるからこそ夢であって、映画ドン・キホーテでも老騎士は夢破れ、怪物に敗北する。

未来世紀ブラジル」がそうであったように、映画ドン・キホーテの結末はバッドエンド(敗北)か?たぶん、そうでもあるし、そうでもないのだろう。一つ確かなのは、ギリアムはこれからも死ぬまで夢を見続けるに違いないということだ。 

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好きな映画『シェーン』

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好きな映画の紹介でも。今回は西部劇の歴史を塗り替えた傑作「シェーン」

「シェーン、カムバック!」風と共に男は去り、血と砂と少年がそこに残った。以下はあらすじ。

南北戦争後のアメリカ西部。横暴な牧場主ライカーとの対立に苦しむ開拓者のジョーとその家族の前に、シェーンと名乗る流れ者が出現する。一家のもとに身を寄せることになったシェーンは、ジョーの仲間の開拓者たちとも交流を深めていくが、彼らを追い出そうとするライカーの暴力は激化し開拓者の1人が殺されてしまう。やがて、シェーンは単身ライカー一味のもとへ乗り込んでいくが……。

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残酷描写の導入で時代劇の歴史を変えたのは黒澤明の「用心棒」だが、西部劇の歴史を変えたのは本作「シェーン」だ。

ハリウッドが映画の表現に関して自主規制を強いてた時代、いわゆる「ヘイズコード」が幅を効かせていた中で、シェーンが見せた数々の表現・演出は、当時劇場に訪れた観客や、同業である映画製作者たちの度肝を抜いた。

発砲の際に鳴り響く迫力ある効果音、撃たれた相手の吹き飛び方、胸を押さえて倒れないやられ役など、今となっては当たり前となった数々の表現は、シェーンが初めたことによって生まれたもので、このリアルで真に迫った演出が誕生した背景には、監督であるジョージ・スティーヴンスが、第二次大戦で戦場カメラマン(映画班)として従軍した経験が生かされているという。

その背中に影を落とす風来坊シェーンと、彼が身を寄せる家族との間に生まれる奇妙な絆。無口ながらも、次第に家族たちから認められる存在となるシェーンの姿に、あの山田洋次は大きな影響を受けていて、後に高倉健倍賞千恵子を主演に「遥かなる山の呼び声」としてリメイク版(に近いリスペクト映画)を作った。ちなみにこの遥かなる山の呼び声というタイトルも、シェーンの主題歌「The call of the far away hills」から引用されたものだ。

ハリウッドにおいても、あのサム・ペキンパーがこの映画に強い影響を受け、後にシェーンの暴力描写を更にアップグレードさせた「ワイルドバンチ」を制作するに至った。最近では、アメコミ映画「ローガン」でもその内容が引用されるなど、今なお不朽の名作として、西部劇の傑作として、人々の記憶に残り続けている。

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好きな映画『ヒックとドラゴン』

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好きな映画の紹介でも。今回はディーン・デュボア、クリス・サンダース共同監督のヒロイック冒険ファンタジーヒックとドラゴン

人間とドラゴン、戦争と調和。相互理解・不理解がもたらす軌跡と奇跡の物語。以下はあらすじ。

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以前より、バイキングとドラゴンとの戦いが続いているバーク島。ある日、平凡な少年、ヒックはケガをしたドラゴンのトゥースと偶然に出会う。本来なら敵同士であるヒックとトゥース。しかし、二人の距離は少しずつ縮まり、やがて誰にも知られないように友情を育んでいく…。

アニメ作品のアカデミー賞と言われるアニー賞において、作品賞含む主要10部門を総なめにした、アンチディズニー集団ドリームワークスの傑作アニメーションシリーズ第一弾。

イギリスの児童文学作家クレシッダ・コーウェルの「ヒックとドラゴン」を原作とする本作は、原作から設定やキャラクターを大きく変更させており、とりわけ主人公ヒックと相棒トゥースの関係性や、ドラゴンの生態を知ったヒックが、人間とドラゴンとの間で中を取り持つ姿などは、映画オリジナルの要素であり、原作と映画は殆ど別物と言っていい。

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ヒックが住むバーク島は、屈強なヴァイキングたちが軒を連ねる小さな島国。ヴァイキングといえば、まさしく海賊のイメージそのままに、掠奪を生業とする海のギャングの様に思われがちだが、その生活の多くは故地における農業や、遠征先での交易が主であり、実は掠奪自体は仕事ではない(映画の中でも農業や漁業を生業としている描写が見受けられる)。

ヴァイキングが活躍していた時代は凡そ800年〜1050年。そしてその活動地域は、スカンディナヴィア半島、バルト海沿岸全体となる。北欧の地に住まう彼らにとって、信じる「神」とは「自然」や「世界」そのものであり、イングランドの支配が及ぶ800年代末ごろまでは、俗に言う精霊信仰・アニミズムが長年土地に根付いていたという。

これが何を意味するかというと、つまるところ彼らの思想・死生観にキリスト教的な考え(懺悔・施し・赦し)は一切絡んでこないということで、ヒックとドラゴン本編においても、ヴァイキングたちは勝利や奇跡を雷の神「トール」や、戦いの神「オーディン」などに希う。彼らにとっては勇ましさや豪傑さこそ信じる「神」であり、臆病、後悔、迷い、情けなどは、即“弱者”として切り捨てられ、それはそのまま死に直結する。

後悔・反省とは無縁で無頓着。ヴァイキングとは現代でいう超体育会系かつ肉食の脳筋集団であり、そこにヒックのような繊細で思慮深い人間がいることがどれだけ大変かは、映画本編を見ていればよく分かる。また、ヒックはたまたま族長の息子というポジションにいたために“まだ”大目に見られていたフシがあるものの、これがもし平民の子であったとしたら、気紛れに殺されていたとしても不思議ではない。ヴァイキングの世界は、=北斗の拳、マッドマックスと思って差し支えない。

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さて、ここからが本題。なぜヴァイキングの思想や生態について前置きしたかというと、それはこの物語自体がヴァイキング(海賊時代)の終焉、つまり土着信仰を脱ぎ捨て、新たな価値観を獲得していく物語に他ならないからだ。そしてその先頭に立ち、新たな「教え」、ドラゴンとの融和を取り持つのが主人公のヒック。

彼が相棒のトゥースと共に繰り広げる数々の冒険は、神話や民話に基づく英雄譚としても受け止められるが、その本質にあるのは、奪うだけでなく、他者を受け入れること、分け与えることの大切さを説く「伝道」に近い。つまり、ヒックの教える新たな概念、ドラゴンと人との融和の様子は、言い換えれば「キリスト教」の教えである。

そしてその新たな教え、概念は、やがてドラゴンとの戦争に負けて滅びる運命にあったヴァイキングたちの命を救い、真の意味での平和をバーク島にもたらす。ヒックは正しく救世主、ヴァイキングたちのイエス・キリストだ。

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ヒロイン・アスティの存在もかなり重要だ。彼女はヒックの最初の理解者であり、また最後までヒックを疑い拒絶していたアンチキリストでもある。ドラゴンと関わるヒックに対して、懐疑的な目を向けるアスティだったが、トゥースの背中に乗り、生まれて初めて空を飛ぶことによって、それまでの価値観が全て崩壊、再構築される。まさに、「眼から鱗」というやつだ。

ある意味で「盲目」の状態であったアスティは、新たな教えによって新たな世界を垣間見る。「眼から鱗」の語源となった元ユダヤ教徒使徒パウロは、光によって奪われた視力を新たな教え、キリストのお告げによって回復させる。その際に眼から鱗が落ちたという逸話は、聖書に載っている通りだ。キリスト教に目覚めたパウロは、後にキリストの活躍を描いた新約聖書を執筆することで、イエスの英雄譚の紡ぎ手となる。アスティは、ヒックにとってのパウロといえる。

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パウロの回心

なんだかキリストだのパウロだの、とたんに宗教色が強くなってきたが、これは物語の舞台設定上、時代背景上避けては通れない話なので仕方がない。というのも、史実上ヴァイキングの衰退とキリスト教の伝来には大きな関係があるからだ。

878年、ヴァイキングの指導者グズラムは、イングランドのアルフレッド大王に敗れ、これによってイングランドにおけるヴァイキングの居住地を定める協定が結ばれる。これがヴァイキングたちの終焉、そして彼らの住む北欧にキリスト教が持ち込まれるきっかけとなったわけだが、その教えが映画同様、北欧の人々の平和や融和に繋がったかといえば、そんなことはなかったことは歴史が証明している。

話をヒックとドラゴンに戻すと、ヒックは敵であったはずのドラゴンを人間たちと引き合わせ、共同体としての新しい生活を始めることに成功する。この共同体による文明の発展・革命というのは、どこかで聞いたことがあるというか、まさしくアメリカそのものである。ヴァイキングたちが持っていた旧来の価値観(アニミズム)はそのままに、ヒックが持ち込んだ新しい考え(キリスト教)もごちゃ混ぜにして、一つの運命共同体として生活する姿は、ヴァイキングキリスト教原理国家というより、リベラルな欧米のそれに近い。

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自然信仰をするヴァイキングたちにとって、その化身ともいえるドラゴンたちは、本来争う対象ではなく、むしろ信仰の対象(神)として崇め奉る存在になっても不思議ではないのだが、そこは侵略者、開拓者としての魂が優ってしまうのが人間の常。アメリカがかつて入植の時代に犯したのと同じ過ちを繰り返すヴァイキングたちだが、そこに仲介として入るヒック(そしてトゥース)の存在が、自然と人との繋がりを結びつけ、本当の意味でのアニミズム信仰(自然との持ちつ持たれつ)、そして正しい意味でのキリスト教(施し・融和)の教えを取り戻していく。まさしく、今の時代だからこそ描けた、今の時代だからこそ必要なものを描いた、傑作アニメーション映画だ。アニー賞を総なめにしたのも納得の名作である。

ヒックとドラゴン 1 伝説の怪物 (How to Train Your Dragon (Japanese))

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好きな映画『ホーリー・マウンテン』

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好きな映画の紹介でも。今回はアレハンドロ・ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン

ルネ・ドーマルの「類推の山」を原作とする、精神の修行と旅、そして解放をサイケデリックに描いたトンデモロードムービィ。以下はあらすじ

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とある砂漠ではりつけにされ、裸の子どもたちに石を投げつけられているキリストに似た風ぼうの盗賊。自力で十字架から降り立った彼は、居合わせた男と共に町へ向かう。町ではキリスト像を売る太った男たちに捕らえられ、鏡の部屋に閉じ込められてしまう盗賊だったが、何とか部屋から脱出し…。

映画を作っているのか、宗教をやっているのか、微妙かつ絶妙な立ち位置でいつも奇天烈な映画を作るホドロフスキーが作った長編三作目は、前作「エル・トポ」を大層気に入ったジョン・レノンからの支援もあり、予算を十分に確保した状態(なんと100万ドルの出資があった)で製作に臨んだ意欲作だ。この映画は、終始抽象的かつ意味不明な描写ばかりが連続しているので、一瞬「もしやカンで撮っているのでは?」と勘繰りそうになるものの、実はシーン一つ一つにはちゃんと意味が込められている(当たり前だ)。

まず、ホーリーマウンテンに登るために選ばれた9人の男女は、作中でも示している通りそれぞれがタロットカードの役割を担っていて、主人公である「盗賊」が担当するのは、旅する愚か者こと「愚者」のカード。

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このカードが示すように、主人公はいつも着の身着のまま、欲望が赴くままに行動を起こし、釣られては騙され、騙されては釣られを繰り返していく。何故なら彼が体現するのは俗物であり、直ぐに金に目が眩む大衆そのものであるからだ。

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一度張り付けになる姿といい、その風貌といい、この主人公はどう見てもキリストのそれに見えてしまうわけだが、これにも勿論意味はある。

この物語自体、主人公である盗賊が、欲を脱ぎ捨て悟りを開き、最終的に「普通」の幸せを獲得して山を降りていくという、一度死んで生まれ変わる(復活)過程を描いていくわけで、この映画はつまるところ転生の話でもあるのだ。だから、主人公はキリストなのだが、神を目指して修行するはずが、逆に人に堕ちるというあべこべな描き方が、いかにもイタズラ好きで底意地の悪いホドロフスキーらしい。

ちなみに序盤から出てくる四肢のない中年男性は、ホドロフスキー曰く、主人公の内面にある「純粋さ・幼さ」の化身(要するにイマジナリーフレンド)であるらしく、終盤で彼を海に捨てる場面は、自分の中の幼児性との決別、精神の成長を描いているようなのだが、そんな説明は一切ないので分かる方が難しい。相変わらず、ホドロフスキーの映画は分かりやすいようで分かりづらい。

他にも難解な箇所が多分に登場するため、一度見ただけは「?」しか湧かない映画ではあるが、その強烈すぎるビジュアルや、風刺に満ちたストーリー、そして終始目を離せない圧倒的なオーラは驚嘆に値するので、未見の人には是非一度観てもらいたい。

いかにもカルトでネジの外れたこの映画だが、撮影時は実際にかなりのカルトというか、グレーゾーンギリギリなことをやっていたという。例えば撮影前、日本人の禅道士と一週間寝ないで修行をしたり、出演者全員で1ヶ月くらい共同生活をしたり、挙げ句の果てにはLSDやマジックマッシュルームを使って神秘体験をした後に、そのイメージを映画に反映させたり等、映画同様やることなすことめちゃくちゃである。こんな並外れたことができるのは、後にも先にもホドロフスキーくらいだろう。

一生に一度は観ておいても損はない、カルト映画の聖なる頂。そのオチも含めて、見るもの全てがホドロフスキーからバカにされる(イタズラに翻弄される)、究極・最強の風刺映画だ。

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類推の山 (河出文庫)

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