日本映画にオマージュとリスペクトを捧げた今敏の長編二作目。以下はあらすじ。
映像製作会社社長・立花源也は、かつて一世を風靡した大女優・藤原千代子の半生を振り返るドキュメンタリー制作を依頼された。千代子の大ファンだった立花は、30年前に人気絶頂の中、忽然と姿を消し、以来公の場に現われなかった千代子の屋敷へ向かう。そこで語られる千代子の半生。それは、女優になる前、女学生の頃に恋した名も知らぬ男性を、生涯をかけて追い求める壮大なラブ・ストーリーだった。
忽然と映画界から姿を消した伝説の女優・藤原千代子。彼女のモデルは、戦後の日本映画で活躍した実在の女優・原節子からきている。小津安二郎監督の「晩春」や「東京物語」などで華々しく活躍した原節子は、1963年に女優業を引退し2015年に死去するまで、およそ半世紀近く隠遁生活を送っていたという。
その美貌から「永遠の処女」とまでうたわれた彼女が映画界を去った理由は、恩師である小津安二郎の死を悼んだからだとか、自分のイメージを崩したくなかったからだとか、さまざまな憶測が飛び交ったものの、その真意について、結局本人の口から語られることはなかった。
この映画は、そんなミステリアスな原節子の生涯を、今敏なりの解釈と妄想、そして日本映画に対するオマージュを掛け合わせて作られた、言ってみれば「今敏から伝説の女優へ送られたファンレター」とも呼べる作品だ。
幻想と現実、過去と現在が次々に交差するストーリーは中々独特の構成をしているが、これはジョージ・ロイ・ヒル監督の「スローターハウス5」にインスピレーションを受けたものだというのを、今敏監督自身インタビューで語っている。合わせて見ることで、より映画に対する理解が深まるのでオススメだ。