その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『百日紅』

f:id:DeadPoetsSociety:20190504232952j:image

好きな映画の紹介でも。今回は原恵一監督の「百日紅

18世紀のお江戸を舞台にした、一人の浮世絵師の挫折と葛藤の物語。以下はあらすじ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190504233119j:image

さまざまな風俗を描いた浮世絵が庶民に愛された江戸時代、浮世絵師・葛飾北斎は大胆な作風で一世を風靡(ふうび)する。頑固で偏屈な天才絵師である父・北斎の浮世絵制作を、陰で支える娘のお栄(後の葛飾応為)も優れた才能を発揮していた。そんな北斎親子と絵師の交流や、江戸に生きる町人たちの人間模様がつづられていく…

名作「オトナ帝国の逆襲」を世に送り出したことで「泣ける映画監督」の名で呼ばれる原恵一監督による、クレヨンしんちゃんシリーズから独立した後のオリジナル企画第4弾。

原恵一監督が独立してからの(実写を含む)3本の映画は、クレヨンしんちゃんの影に引っ張られたせいか、オリジナリティがうまく発揮出来ていない、中途半端(にクレヨンしんちゃん)な「感動映画」ばかりであったが、本作百日紅は、親であり師匠でもある、巨匠北斎を乗り越えられない自分と葛藤する主人公お栄の姿が、今ひとつ自分の作風を確立できず悩む監督自身の姿と上手くリンクしたことで、クリエイター特有の「産みの苦しみ」を上手く表現できた名作となった。

主人公お栄の前に立ちはだかる巨大な壁(親)葛飾北斎は、その生涯で生み出した作品総数は3万点を超えると言われているのだが、その実殆どの絵は娘お栄に代筆を頼んだものであったという。天才的な筆運びの腕を持ちながらも、常に北斎の陰に隠れ、「コピー」として不遇の生涯を送ったとも言われる葛飾お栄。クレヨンしんちゃんというシリーズに縛られ、中々しんちゃん以上のものが生み出せない原恵一監督にとって、これほど共感できる人物像も無かったに違いない。

こと創作の世界においては、多作であること(引き出しが多いこと)が巨匠の条件と呼ばれるものの、一つのジャンルでしか輝きを放てないクリエイターが多いのも事実。だが、一つの場所でしか輝けないクリエイターが、イコール巨匠になりえないのかと言えば、それはまた別の話だ。

ガンダムの生みの親である富野由悠季監督は、ロボットSF以外に作品を作ろうとしないが、同じジャンルの中で作品を発表し続けることで、「ロボットSFの巨匠」という地位を確立した。一つのジャンルのみを極めることは、決して恥ずかしい事などではないのだ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190505003908j:image

巨影北斎の背中を追いかけ、ひたすら一つの作業(模倣)に取り組むお栄の姿は美しく、それはそのまま、この作品を作り出した原恵一監督の姿として映し出される。ラストシーン、スランプに悩み、苦しんだ末に壁を乗り越えたお栄がたどり着いた絵(答え)が、「原点に立ち返る」というのも素晴らしい。

自分の人生に悩み、苦しんだ経験を持つ者必見の青春映画。