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好きな映画『ノーカントリー』

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好きな映画の紹介でも。今回はコーエン兄弟の「ノーカントリー

コーエン兄弟アカデミー賞監督賞・作品賞を初めてもたらした傑作スリラー。以下はあらすじ。

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ある日のこと、いつものように狩りをしていたルウェリンは、死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シガーに追われることになる。事態を察知した保安官ベルは、2人の行方を追い始めるが……。

コーエン兄弟にとって「ファーゴ」に続いて二度目のアカデミー賞受賞作品となった本作は、またもや田舎を舞台に保安官と犯罪者の追いかけっこを描いた内容となった。だが、これは意図したものではなく、あくまで偶然の産物だとか。

齢60を過ぎたロートル保安官ベルは、絶対的な力によって、天災のように暴力を振りまく殺し屋シガーが巻き起こす「理由なき殺人」の謎を追っていくのだが、近づけば近づくほど不鮮明になるその動機に、次第に諦めの感情を強めていく。

タイトルになっている「ノーカントリー」は、原題「No Country for Old Men」から取られたもので、その意味するところは「老人の住める国ではない」となる。これは、19世紀の詩人ウィリアム・イエーツの詩集「塔」の一篇「ビザンティウムへの船出」から引用された一説で、その内容は要約すれば「時代の変化に伴う旧来の世界(価値観)の崩壊」というもの。

産業革命による科学技術の進歩が、社会全体に大きな変革を及ぼす時代の中で、イエーツは時代に逆行する神秘やロマンに夢を託し、人類が長い歴史のなかで紡いできた「芸術」にこそ、世界や人間が持つ美(良心)が宿ると信じていた。曽祖父の代から続く保安官の家系を、その地に住み続け守ってきた老人ベルにとって、受け継がれる伝統や歴史、価値観の重みは、イエーツにとっての芸術と同じくある種の寄る辺となっている。だが、そんな想いを嘲笑うかのように、殺人者シガーは次々に理解を超えた「理不尽」を世界にばら撒き、それまでの価値観や倫理を踏みにじっていく。

私怨や信念を伴わない、理解を超えた暴力行為は、もはや天災と同じく避けようのないものなのか?否。一見絶対的な理不尽もまた、別の理不尽に見舞われることもある。永劫に続く権威が存在しないように、この世は常に、人が預かり知らぬ諸行無常の上に成り立っている。

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

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