その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『メトロポリス』

f:id:DeadPoetsSociety:20190630194202j:image

好きな映画の紹介でも。今回はりんたろう監督の「メトロポリス

フリッツ・ラングの「メトロポリス」に影響を受けて筆を走らせた、手塚治虫の同名漫画を原作とする、ヒトとロボット、神とバベルと闘争を描いた、黙示録的大作SF。以下はあらすじ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190630195005j:image

ロボットと人間が共生する巨大都市国家メトロポリス。一見理想的な社会かに見えるこの国だが、発達したロボットによって大きな恩恵を受けた者がいる一方、そのロボットたちによって働き口を奪われた者、ロボットにも人権をと主張する団体など様々な確執が噴出し始めていた……。

バンダイビジュアルが1997年に発表した映像コンテンツ開発計画、「デジタルエンジンプロジェクト」の一環として製作された本作は、押井守大友克洋、そしてりんたろうの3人のSFアニメ作家を中心に、ハリウッドに対抗するべく膨大な予算と人材が投入された大作映画企画の第一弾だ(第二弾は大友克洋の「スチームボーイ」、第三弾の押井守による「ガルムウォーズ」は計画が頓挫して立ち消えとなった)。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701140603j:image

原作となった手塚治虫の「メトロポリス」は、後の代表作「鉄腕アトム」の原案にもなった短編漫画で、その内容はアトム同様「人造人間の苦悩と葛藤」を描いたものとなっている。その更に元となったラングの「メトロポリス」では、人造人間の扱いがあくまで「人を惑わす道具」であったのに対し、漫画、そしてアニメ版における人造人間の扱いは、「人と機械の間で揺れる存在」つまり半人間として描かれている。

この”人と道具の中間“という要素は、恐らくディズニーの「ピノキオ」から着想を得たもので(当時手塚治虫はディズニーから多大な影響を受けていた)、その影響は鉄腕アトムの作中において、親(天馬博士)から捨てられたアトムがサーカスに売り飛ばされるという、殆どピノキオと同じ内容を描いていることからも見て取ることが出来る。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701193302j:image

つまるところ、メトロポリスやアトムで手塚治虫がやりたかったことは、「欲望渦巻く人間世界における無垢なる存在の葛藤」であり、このSF風ピノキオとでも呼ぶべき物語形式は、アニメ版メトロポリスにも継承されている。だが、アニメ版は、そこからテーマを一歩先に進め、新たに古今東西のあらゆる「人造人間作品」のテイストを取り込むことで、手塚作品であり、一方で別作品でもあるという、なかなか手の込んだ完全オリジナルストーリーを完成させた。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701205117j:image

人とロボットが共存する大都市メトロポリスへやって来た少年ケンイチとその叔父、私立探偵ヒゲオヤジ(こと伴俊作)は、生体を使った人造人間製造の疑惑で国際指名手配されている科学者ロートン博士を逮捕するため、独自に街で調査を開始する。

メトロポリスは、表向きこそ「人とロボットの共存都市」と言われていたが、現実は、人間がロボットたちを一方的に酷使し、壊れたら即廃棄するという残酷なものだった。その一方で、人間の労働者たちも、ロボットに働き口を奪われたことで都市の地下部に押し込められ、ロボットに対して憎しみをたぎらせる。更に、上層部では街を影から支配するレッド公の暗躍や、それと対立する表の支配者、ブーン大統領の存在など、様々な勢力が覇権を争い入り乱れていた。

ヒゲオヤジとケンイチは、ロボット刑事ペロの手助けを借りて、ロートン博士が潜伏していると思われる都市の地下部ZONE1へと潜入し、そこで地下研究所を見つけるのだが、突然原因不明の火事が起こり、研究所内部に突入したケンイチは、逃げ後れた謎の少女を助ける。彼女は、大統領に成り代わり都市の実権を握ることを企む、レッド公の亡き娘・ティマに瓜二つだった。

一方、ロートン博士に作らせた人造人間ティマの安否が気がかりなレッド公は、私設部隊であるマルドゥク党に捜索命令を出すのだが…。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701205404j:image

本作における人造人間“ティマ”の立ち位置は、「世界を滅亡させ得る存在」として描かれていて、これは原作漫画と同じ設定なのだが、原作漫画に登場する人造人間“ミッチィ”が、「親から愛されなかった」ことを理由に悪の道へ落ちていく一方、アニメ版の人造人間ティマは、レッド公という親に愛されているにも関わらず、最終的には悪の道へと落ちていく。

ティマが悪に染まる最大の理由は、物語のコンセプトにもなっている、「人間のエゴが作りし文明(バベルの塔)の崩壊」を描く上で、絶対的な力の持ち主である彼女を、神(と弱者)の代弁者として振る舞わせる必要があったから…というのが最大の理由だが、この善と悪、どちらの存在にも傾く二面性という要素は、原作漫画というより、石ノ森章太郎の「人造人間キカイダー」から引用されたものだ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701234137j:image

キカイダーは、善と悪どちらにも傾き得る不完全な良心回路を備えた人造人間で、その「不完全ゆえに完全」な姿は、アトム同様「ピノキオ」を下敷きに作られている。メトロポリスにはレッド公の養子にしてティマを執拗に付け狙うロックという青年が登場するのだが、これはキカイダーにおけるハカイダーであって、ティマとは違って最初から純粋な悪を備えるその姿は、キカイダー同様自分(ティマ)にとっての写し鏡となっている。

f:id:DeadPoetsSociety:20190702000858j:image

また、ケンイチと行動を共にするロボット刑事ペロは、同じく石ノ森章太郎の特撮「ロボット刑事」の刑事Kをモデルに作られていて、その帽子を身につけたビジュアルや、自分を犠牲にしてでも人間を守らなければならない(いわゆるロボット三原則)忠実な姿はかなり“まんま”に描かれている。

このように、手塚作品だけでなく、石ノ森作品からの引用も多数登場する本作メトロポリスだが、引用された要素はまだ他にもある。それは、「ブレードランナー」だ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190701235132j:image

レッド公が裏で手を引く自警団「マルドゥク党」に属するロックは、動作不良を起こし、街や人間に被害を及ぼすロボットを銃で蜂の巣にし処刑していくのだが、これは不良品のレプリカント(人造人間)を始末するブレードランナーデッカードそのままであり、そのメインプロットである「創造主に対する叛乱」という部分を見ても、かなり共通している点は多いといえる。そして、そのブレードランナーが最も影響を受けた作品こそが、フリッツ・ラングの「メトロポリス」だ。

f:id:DeadPoetsSociety:20190702000108j:image

他にも影響を受けたり、引用されたものを挙げていけばキリがないのだろうが、ハッキリと言えることは、全ての人造人間の物語は、「ピノキオ」そして「メトロポリス」の多大なる影響下に置かれているということだ。

そんな偉大な二作品にオマージュを捧げ、更にそこから生まれた数々の派生作品(子供たち)をも内包させて、全てを一つにまとめあげた本作メトロポリスは、アニメーションとしても、人造人間の物語としても、まさしく集大成と呼ぶべき記念碑的作品だ。

メトロポリス [Blu-ray]

メトロポリス [Blu-ray]

 
ロストワールド メトロポリス (手塚治虫文庫全集)

ロストワールド メトロポリス (手塚治虫文庫全集)