その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『マルホランド・ドライブ』

f:id:DeadPoetsSociety:20191004095142j:image

好きな映画の紹介でも。今回はデヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ

リンチが敬愛するサスペンスホラー「サンセット大通り」にリスペクトを捧げた、ハリウッドの光と陰、そして、人間の表と裏を描いた不思議で不気味な胡蝶の夢。以下はあらすじ。

f:id:DeadPoetsSociety:20191004095245j:image

ある真夜中、マルホランド・ドライブで車の衝突事故が発生。ただ一人助かった黒髪の女リタは、ハリウッドの街までなんとか辿り着き、留守宅へ忍び込む。すると、そこはある有名女優ルースの家だった。ルースの姪ベティに見つかってしまったリタは、事故の影響で記憶障害を起こしていることをベティに打ち明けるものの、手掛かりは大金と謎の青い鍵が入ったバッグのみ。ベティは同情と好奇心から、リタの記憶を取り戻す手助けを買って出るのだが…。

f:id:DeadPoetsSociety:20191021140507j:image

マルホランドドライブ、それはハリウッドに実在する道路の名称で、この道路を降りていくと、かの有名なサンセット大通りに出るという。

ハリウッドを舞台に、一人の女優の夢と狂気が交わる本作の内容は、ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」にリスペクトとオマージュを捧げたものであり、物語の主軸となっている、ハリウッド世界の光と闇、映画俳優の天国と地獄(残酷さ)などの要素は、サンセット大通りから引用したものだ。

f:id:DeadPoetsSociety:20191023003749j:image

本作は元々(以前リンチが手掛けた企画ツインピークスと同じく)連続テレビドラマとして製作が進められていたのだが、パイロットフィルムの評判が悪かったことで、急遽一本の映画として無理やり完成させたために、作品内で回収しきれていない伏線がちらほらと点在している(バッグに入った大金、冒頭に出てきた顔の黒いホームレスなど)。

劇中、登場人物の名前や性格が突然変わったり、青い鍵やカウボーイが唐突に登場したりと、映画の構成自体が複雑な上に、数々の「投げっぱなし」となった伏線も混在することで、一度観ただけは理解がし辛い内容になっているのだが、その実、話の筋(というか真相)自体は実にシンプルで、種が分かってしまえばこれ以上分かり易い話もない。

 

ーーー以外ネタバレ注意ーーー

 

 

f:id:DeadPoetsSociety:20191023010035j:image

この映画で描かれる内容の殆どは、主人公ダイアン(ベティ)が見た(というより夢見た)妄想の産物であり、具体的に言えば、青い箱を開けてベティが消えるまでの話は全てダイアンが見た「夢」の話だ。なので、そこに登場する人物は、ベティを含め全て(ある一部を除いて)ダイアン自身(の記憶と妄想に基づく架空の人物)となっている。

なぜダイアンがそんな夢を見たのかといえば、それは映画監督のアダムと婚約して、自分を捨てたカミーラを殺してしまった(殺し屋に殺させた)罪悪感からであり、罪悪感に苛まれたダイアンは、夢の世界に逃げ込むことで、自分にとって都合の良い理想郷を頭の中に作り上げた。

f:id:DeadPoetsSociety:20191023011217j:image

夢の中では、憎い恋敵である監督アダムは次々と災難に見舞われ、最愛のカミーラは記憶喪失で自分がいないと生きていけないか弱き存在として扱われる。そんなご都合主義な世界からダイアンを現実に引き戻すのは、正体不明の不気味なカウボーイ。このカウボーイの正体は、前作ロストハイウェイに出てきた謎の男(通称ミステリーマン)と同じく、欲望の成就と引き換えに主人公を地獄に引きずりこむメフィストフェレス、悪魔である。

自分の嫉妬によって悪魔に魂を売り渡した(カミーラの殺しを依頼した)ダイアンは、その代償として、恐怖によって自殺に追い込まれ、最終的にカウボーイ男に魂を持っていかれる。ちなみにこの「恐怖によって魂が抜かれる」という要素は、リンチがツインピークスで繰り返し使っていた手法でもある。

また、クラブ・シレンシオに登場した支配人の男が言う「これは全てまやかし、トリックです」という台詞は、ダイアンが今見ている夢に対するメタ発言で、その意味するところは「早く目を覚ませ」となる。つまり、この男とカウボーイは同一人物だ。

f:id:DeadPoetsSociety:20191023011656j:image

ハリウッドという「夢」の世界で夢見た、一人の女優の儚い夢物語。成功する者の影には、常に成功しなかった者の姿が存在する。デイミアン・チャゼルミュージカル映画ラ・ラ・ランドが、サクセスストーリーの成功例であるとしたら、この映画はその失敗例、悲劇を描いた物語だ。

誰しも夢を見るのは平等であっても、それが必ず叶うとは限らない。

f:id:DeadPoetsSociety:20191023012334j:image