その辺の趣味ブログ

主に映画の話しかしません。

好きな映画『ホーリー・マウンテン』

f:id:DeadPoetsSociety:20200111192714j:image

好きな映画の紹介でも。今回はアレハンドロ・ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン

ルネ・ドーマルの「類推の山」を原作とする、精神の修行と旅、そして解放をサイケデリックに描いたトンデモロードムービィ。以下はあらすじ

f:id:DeadPoetsSociety:20200111193557j:image

とある砂漠ではりつけにされ、裸の子どもたちに石を投げつけられているキリストに似た風ぼうの盗賊。自力で十字架から降り立った彼は、居合わせた男と共に町へ向かう。町ではキリスト像を売る太った男たちに捕らえられ、鏡の部屋に閉じ込められてしまう盗賊だったが、何とか部屋から脱出し…。

映画を作っているのか、宗教をやっているのか、微妙かつ絶妙な立ち位置でいつも奇天烈な映画を作るホドロフスキーが作った長編三作目は、前作「エル・トポ」を大層気に入ったジョン・レノンからの支援もあり、予算を十分に確保した状態(なんと100万ドルの出資があった)で製作に臨んだ意欲作だ。この映画は、終始抽象的かつ意味不明な描写ばかりが連続しているので、一瞬「もしやカンで撮っているのでは?」と勘繰りそうになるものの、実はシーン一つ一つにはちゃんと意味が込められている(当たり前だ)。

まず、ホーリーマウンテンに登るために選ばれた9人の男女は、作中でも示している通りそれぞれがタロットカードの役割を担っていて、主人公である「盗賊」が担当するのは、旅する愚か者こと「愚者」のカード。

f:id:DeadPoetsSociety:20200112135707j:image

このカードが示すように、主人公はいつも着の身着のまま、欲望が赴くままに行動を起こし、釣られては騙され、騙されては釣られを繰り返していく。何故なら彼が体現するのは俗物であり、直ぐに金に目が眩む大衆そのものであるからだ。

f:id:DeadPoetsSociety:20200112141254j:image

一度張り付けになる姿といい、その風貌といい、この主人公はどう見てもキリストのそれに見えてしまうわけだが、これにも勿論意味はある。

この物語自体、主人公である盗賊が、欲を脱ぎ捨て悟りを開き、最終的に「普通」の幸せを獲得して山を降りていくという、一度死んで生まれ変わる(復活)過程を描いていくわけで、この映画はつまるところ転生の話でもあるのだ。だから、主人公はキリストなのだが、神を目指して人に堕ちるというあべこべな描き方が、いかにもイタズラ好きで底意地の悪いホドロフスキーらしい。

ちなみに序盤から出てくる四肢のない中年男性は、ホドロフスキー曰く、主人公の内面にある「純粋さ・幼さ」の化身(要するにイマジナリーフレンド)であるらしく、終盤で彼を海に捨てる場面は、自分の中の幼児性との決別、精神の成長を描いているようなのだが、そんな説明は一切ないので分かる方が難しい。相変わらず、ホドロフスキーの映画は分かりやすいようで分かりづらい。

他にも難解な箇所が多分に登場するため、一度見ただけは「?」しか湧かない映画ではあるが、その強烈すぎるビジュアルや、風刺に満ちたストーリー、そして終始目を離せない圧倒的なオーラは驚嘆に値するので、未見の人には是非一度観てもらいたい。

いかにもカルトでネジの外れたこの映画だが、撮影時は実際にかなりのカルトというか、グレーゾーンギリギリなことをやっていたという。例えば日本人の禅道士と一週間寝ないで修行をしたり、出演者全員で1ヶ月くらい共同生活をしたり、挙げ句の果てにはLSDやマジックマッシュルームを使って神秘体験をした後に、そのイメージを映画に反映させたり、映画同様やることなすことめちゃくちゃである。こんな並外れたことができるのは、後にも先にもホドロフスキーくらいだろう。

一生に一度は観ておいても損はない、カルト映画の聖なる頂。そのオチも含めて、見るもの全てがホドロフスキーからバカにされる(イタズラに翻弄される)、究極・最強の風刺映画だ。

ホーリー・マウンテン HDリマスター版 [Blu-ray]

ホーリー・マウンテン HDリマスター版 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • 発売日: 2013/09/03
  • メディア: Blu-ray
 
類推の山 (河出文庫)

類推の山 (河出文庫)